University of Copenhagen & Swedish Agricultural Science University
コペンハーゲン大学、スウェーデン農業科学大学UFUGマスタープログラム
保清人さんの留学レポート

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はじめまして。
僕は今デンマークのコペンハーゲン大学(University of Copenhagen)とスウ ェーデンのスウェーデン農業科学大学(Swedish Agricultural Science University )というところで行われているUFUG(Urban Forestry and Urban Greening )という1年のマスタープログラムを勉強してしています。今年の6月に修了しますが、報告ができることができるならばと 思い、メールしています。
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私がランドスケープに興味をもったのは学生時代に小堀遠州と文献で出会ったことがきっかけで、その後留学を決めたのはWEST8のアードリアン・ヒィーゼの影響です。大学3年時にWEST8のデザインに圧倒されたのです。
大学から建築を学んだものとしてこの出会いは衝撃でした。自然(nature orlandscape)と建築(architecture)がここまでおもしろく合体できるのか!と思ったのです。現代の小堀遠州ここにあり!WEST8 のランドスケープは小堀のきれいさびを彷彿とさせる、と勝手ながら思ったわけです。

「建築はただ自然を壊すという以外なにものでもない。でも建てないと人のためにならない。どうすればいいんだ!!」という頭でいた私としては現代の小堀、WEST8のようなランドスケープに触れて、これしかない!と思いました。
そして、早速WEST8にアプリケーションを出しました。しかし結果はNOでした。その後ロッテルダムのオフィスを訪ねましたがやっぱりダメでした。その夏、私は東京キャナルプロジェクトのワークショップに参加して、ヒューゼと会う事ができました。やはり彼のペンの動き、感性、オーラはまさに私の目指すものでした。
そのときにも就職の話しをしたのですが、“ヨーロッパでマスターをとらないと。。。ビザが大変だからねー”また、“それが終わったらアプリケーションだしてみて、君のことは覚えておくよ!”という言葉をヒューゼに頂いてそのときに単純に、ヨーロッパに行こう!と思いました。

でも下準備として、日本を知ることが先決と思い、生け花、小堀の影響で茶道を学びました。それは、植物を操る所作、技、美学なんかは生花のほかにはない、日本最高のランドスケープは茶の空間にあるとした私の判断です。

さて、学校選びですが、アメリカ、イギリス、オランダの建築学校のデザインに重きをおくランドスケープか、農業大学の植物を中心に学ぶランドスケープで最初は悩みました。そして授業料、土地柄、趣味なども選択肢の中にあります。
その中でヒューゼの出身大学であるワーゲニンゲン農業大学(オランダ)にも授業料も安く、とても有名な大学ということでアプライしました。でも、なにかヒューゼのマネっこばかりだなーと思いこの選択もやめました。
それで、他になにか特別な事はないかと思い、世界中のランドスケープ学科をあたりました。デザイン、植物両方。ランドスケープ、ミドリのことならなんでも勉強できるマスターはないかと思い探しました。

そしてUFUG(Urban Forestry & Urban Greening)プログラムに出会ったのです。しかも、北欧すべての農業大学が協力して作られた、実験的、未来型ランドスケーププログラムです。
キャンパスはコペンハーゲン大学(2007年1月デンマーク農業大学とコペンハーゲン大学統合)とスウェーデン農業科学大学(マルモ近郊の小さな町Alnarp に位置する。本校はウプサラ)です。
ここは少数制で、バラエティーに富んだバックグランドをもつ学生(建築、ランドスケープ、森林学、園芸学、生物学、地質学、都市計画、社会学、アート)が応募します。学外研修ではノルウェー、ストックホルム(アスプルンド)にも行きました。
授業も、ミドリに関して上記のフィールドに加えて、政治、経済、社会学、心理学、マネジメント、コミュニケーション、マーケティングまで幅広く学ぶことができます。

北欧特有のシステムですべてがグループワークです。例えば、建築家、生物学者、森林学者がチームを構成して課題にあたるのです。
 課題は特にPeri-Urban Area(都市と田舎の間ほど)に位置する緑地の開発です。デザイン、マネジメント、マーケティングを考慮しつつランドスケープに関わることすべてやります(挑戦します)。それにグループ内外でのプレゼン、ディスカッションは欠かせません。同時にコミュニケーションとプロフェッショナリズムを学ぶのです。
 プログラムに含まれるコースは全部で5つ。これを1年で学びます。

コペンハーゲン大学にて約半年
Urban Forestry & Urban Greening Thematic Course
Conflict Management
Urban Woodland Silviculture
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スウェーデン農業科学大学(SLU)にて約半年
Communicative Planning
Degree Project (論文)
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今は論文を書いているので、ほぼすべてのコースが終わったのですが、すべておもしろかった!につきます。
UFUG Theme コースは、UFUG という概念を基本的に学びます。とくにランドスケープに関する3つの要素、Policy(政策), Tactical(戦術)and Operational (実行)Levelを学びます。例えばアジェンダ21や京都議定書というのは世界基準の環境に関する政策です。それをいかにして実現するか、そして実行するかということです。

もちろん、国、市町村のレベルにおいても同じことが言えます。理念があって作戦があって実行する。私の経験上、日本での勉強は3つの要素のいずれか、でしか学べなかったと思います。
もちろん、すべて学んだとしても、それがどうつながっているのか、関係しているのかが見えない、わからない。それをここでは、授業、サーベイ、課題、ディスカッションを通して、教授と一緒になって考えます

それにしてもグループワークはとても大変です。例えば、私が図面引いたり、プランニングをした場合、他の学生、森林学や生物学の人は何をやっているかさっぱりわかりません。もちろん、建築の私には、彼らの理想の木のマネジメント、美学はわかりません。そんなわけで、チーム内でわからない事だらけ、コンフリクトもおこります。
でもそこで、お互いの知識を活かすことがどんなに大切で、難しいかがわかります。プロ意識の芽生えです。ちなみに成績はグループレポート30-50ページに加え、チームのプレゼンテーションと個人の口頭試験があります。

Conflict Management (CM), Urban Woodland Silviculture (UWS)は、UFUF Theme Course の後に学びます。大まかな事柄を学んだ後にコンフリクトマネジメント(紛争解決)と森林学といった、少し突っ込んだ勉強をします。ソフト(形のないもの)とハード(形のあるもの)両方を学びます。

よい環境をつくるには紛争が絶えません。紛争解決の授業は、いかにして環境に関する様々な事例を元に、当事者、ステークホルダー、第三者の立場で考えるかを目的としています。この授業では、私のグループでは空港問題を取り上げました。
紛争中の当事者にインタビューをしたりして、とてもエキサイティングな授業です。そしてそのインタビューを元に状況分析をして、解決の手がかりをみんなで探します。とてもソフトな授業ですが、同時に、ランドスケープのデザインをする上で、とても重要なことを学んだと思います。 

UWSは森林学ですが、課題はコペンハーゲンのPeri-Urban にある森林公園をレクリエーション公園にしようというものでした。そこでは、木のマネジメント、コントロールの仕方を学びます。レクリエーションとは何か?から始まり、ステークホルダー分析、ランドスケープ(植生、土など)を分析して、実際にデザインをします。100年のスパンで考えた場合、この公園はどうデザイン、マネジメント(間伐などのメンテナンス)されるべきか、チーム、教授と一緒になって考えます。

2007年になってスウェーデンにきました。プログラムの後半です。そこではまずCommunicative Planning(CP)を行います。そこでもやはり、デザインからマネジメントを含めたランドスケープの提案をします。実際、Hoor というスウェーデンの小さい市に出向き、市長、市役所の職員、居住者などの(ステークホルダー)にインタビューをして、そのHoor という土地に何が必要かを提案します。(下図データ)
 最後にプレゼンテーションを市の住民にして、よければ市の政策に盛り込まれます。(昨年の学生の案は盛り込まれたそうです。)
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すべてのコースで、グループワークが必須、レポート提出、グループプレゼンテーション、個人での口頭試験があります。これはまったく日本と違う教育システムです。北欧の魅力はそこでしょう。それに授業料はいりません。エクスカーションもほぼ学生は払っていません。でも、授業料は社会の変化で、近い将来払うことになるかもしれないということですが。。。

私は今マスター論文を書いています。これもスーパーバイザー(教授)が面倒を見てくれます。日本と違う大きなことといえば、教授(プロ)との距離が格段に近いということでしょう。もしくは、学生と教授がイコールの立場で、共通の課題に挑むのです。それがいちばんの魅力と違いです。そのおかげで論文もおもしろくなりそうです。

ヒューゼに薦められて来た、ヨーロッパランドスケープ留学ですが、今現在WEST8にアプライすることは考えていません。UFUGでランドスケープというものを全体的に眺めることができて、そう思ったのです。
かっこいいデザインをしたいという思いは変わりませんが、それ以上に自分にはまだまだやるべき事がある。なによりも、彼の下で働くよりは、彼と同じ舞台で、自分のスタイルでランドスケープをデザインしたい、働きたいと思ったからです。ヒューゼからの脱皮です。きれいさびを自分なりに考えるためです。

単純ながら今はWEST8以外!のところでオペレーションを学ぶために就職活動中です。まだ決まっていませんが。。。これからよい報告ができるといいです。少し長くなりましたが、よろしくお願いします。

(レポート著者紹介:執筆時)
保清人(たもつきよひと)
1981年4月鹿児島県鹿児島市生まれ。(2級建築士)。東京の工学院大学で建築環境コースで建築と地域計画(Agricultural Landscape とよんでいます。)を学ぶ。大学2年時に休学し1年間アメリカ、ウィスコンシン州(マディソン)で英語の勉強。3ヶ月間ヨーロッパ、アフリカ(エジプトのみ)で一人旅の後帰国。大学修了後は、在学中から始めていた裏千家茶道と池坊の生け花を学びながら、ランドスケープ事務所、建築事務所、荷揚げや、弁当屋でバイト生活を1年と半月。そして現在、UFUGマスタープログラムが行われるコペンハーゲン大学(昨年までKVL、コペンハーゲンの農業大学)、スウェーデン農業科学大学(SLU)在学中。