mcgregor+partners
オーストラリア・シドニー・ランドスケープ事務所
保清人さんの海外就職レポート

ランドスケープMEDIAMIX「UFUGと世界で活躍する鍵~コラボレーション・ランドスケープ~
ランドスケープMEDIAMIX「海外事務所探訪:mcgregor+partners
ランドスケープQ&A
「海外留学について調べたい!」

「君のしつこさにはお手上げだね」とボスに言われ、ここオーストラア、シドニー(マンリー)のランドスケープ事務所mcgregor+partnersに就職。日本、アメリカ、ヨーロッパで得た感動を今度は形にする番です。

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デンマークとスウェーデンでUrban Forestry and Urban Greening(UFUG)修士を取得後、まもなく、サーフィンで有名なマンリーにやってきました。ここまで来るのに何年かかった事か。

思い起こせば、大学1年生の頃に出会った恩師の言葉が頭をよぎります。
「君の考えていることは、今は、海外でしかできないなー。」

環境と建築の狭間で若い坊主なりに激しい葛藤がありました。環境そのものをデザインするにはどうしたらよいのか?よい環境とは何か?建築に何ができるのか?と思い悩んだ挙句、アメリカへ逃亡し、フランク・ロイド・ライトのランドスケープに出会いました。そして、ライトの建築はすべてAccording to time, place and people(時間と場所と人々)のために作られるのだと知りました。ライトが愛した日本を思い起こし、小堀遠州と出会い、ヨーロッパの旅でwest8と出会います。

皆に迷惑をかけつつも、ヨーロッパで就職活動をし、力なく日本へ逃げ帰りました。自分に必要なものを見直し、再びヨーロッパ、北欧を目指します。UFUGで世界の人々と切磋琢磨することで、ランドスケープは世界を変えるものだと知りました。

机だけでランドスケープの勉強はしません。今は、世界中の人たちが目指すランドスケープを、皆の知恵を形にするためにマンリーにいます。今は、働いてもうすぐ2ヶ月になりますが、形にする(ランドスケープする)のはとても大変な事なのですね。もちろんそのスタートラインにたつのも長く、大変な道のり。

まずは、自分を受け入れてくれる人がこの地球上にいるのかどうか?受け入れてくれる人を自分が見つけることができるのか。これが出会いへの道、、、なのかもしれません。

北欧に留学中、100件まではいきませんが、80件ほどのランドスケープ、ランドスケープをする建築事務所にアプライしました。調べた数は1000件を越えますが。。。そのうち面接までこぎつけたのは3件ほど。

最初から藪から棒にアプライしたのではなく、最初はここだ!というところにアプライしています。しかし、ここだ!というところではだめでした。だめならどうするか?受け入れてくれる人がいればよいではないか!と思い、無我夢中で、自分の思いも合わせつつ探しました。アフリカを除けば、全ての大陸で探しました。

すると、思いもよらない国、オーストラリアから「おもしろそうだから、もっと作品をおくってくれ。」とメールがきました。その後、3ヶ月ほどたって、"スカイプで面接しよう"と言われました。

朝の3時からスタンバイして面接しました(スウェーデンとオーストラリアはかなり時差がありますので)。限られた彼らの情報を調べあげ、整理してなんとか自分の気持ちと照らし合わせました。そして、熱弁すること30分。わたしの言うことには納得はしてくれました。

しかし、
「ビザがねー。今は人がいっぱいなんだけどねー。今度のコンペの結果次第ということでどうかな?」
と冴えない返事です。これはいつも断られる時に言われています。しかし、希望は捨てません。彼らがコンペに勝ちさえすれば、入れてもらえる可能性があります。
祈りながら半年。どうやらコンペに勝ったようです。「入れますか?」と単純に質問したところ、
「もう一回スカイプで面接しよう。今度は僕のパートナーのフィリップも一緒だ」と。

そうです。Mcgregor+partnersはエイドリアン・マクグレガーとパートナーのフィリップ・コックスウェルの事務所です。2度目の面接では、さらに気合をいれて、彼らのプロジェクトを洗いざらい調べました。そして、自分に何ができるのかを訴えます。

返事はやはり、「まだたくさん応募している人がいるからねー。何日かたったら連絡するよ」と。その後の返事は、「やっぱりビザがねー。」と。するとすかさず私は、「インターンでもバイトでも、丁稚奉公でも何でもいいから入れてくれ!」と懇願しました。

数日後、「分かった、特殊なビザがあるからそれなら取れるかもしれない。手続きをしてみよう。」と正式採用ではありませんが、事実上のOKを頂きました。しかし、ビザの申請がなんらかのトラブルになり、申請不可能になったとの知らせ。。これでは、納得いかず、もう一度懇願しました。

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すると、「正式採用だったら一度来てもらわないと」と、突き放すようなコトバ。そんなことはどうでもよく、急いで何日か後にシドニーに飛び立ちました。すると、青い海に、さわやかな風。なんとすばらしい環境でしょうか。。

次の日、事務所に招かれ、早速面接です。2人はとても笑顔で、興味深くわたしの話を聞いてくれました。スタッフも皆笑顔で、わたしに接してくれました。

面接が終わると、彼らのプロジェクトを見にいきました。初めての経験です。オーストラリアのランドスケープはなんともダイナミック。青い海に、空、大地は力強い岩!そこに溶け込むように彼らのランドスケープがあります。ダイナミックな中に、なにかとてもエレガントなデザイン性を感じます。(私にはないものです)

日本に帰る前日、またオフィスに招かれ早速結果報告です。まずは、わたしがここに来てどう思ったのか。まだチームに入りたいのか、どうなのかを聞きます。
もちろんわたしの答えは「最高です。YES!YES!」

そして、彼らは
「君の哲学、デザイン、スキルはmcgregor+partnersに必要だと思った。これは事務所のスタッフの意見でもあるよ。他の応募者もいたけど、君に決めたよ。なにより・・そのしつこさがいいね。」
と教えてくれました。

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そしてフィリップはいきなり私に「君はいいデザイナーかね?」と聞きました。わたしは、「んー。。。いいデザイナーになるためにここにきました」と答えると、フィリップは笑いながら「グッドアンサー!」といってくれました。

そんなフィリップは、入社して1週間のわたしに、とても厳しく、優しいコトバをかけてくれました。
「ここは日本じゃないんだ。いいデザイナーになりたいのなら、そのように振る舞いなさい」
「ここにいつまでも残っちゃだめだ!早く帰りなさい!」

正直なところ、ランドスケープの仕事など、ほぼ未経験のわたし。しかも、事務所のすばらしいシステムに対応するのに精一杯で、ずーっとコンピューターと夜までにらめっこ。そんな私にフィリップは、私を気遣い厳しく声をかけてくれました。(色々言われる理由もありますが。)

そんなわたしが突然、キャンベラにある、オーストラリア国立美術館の椅子の設計を任され、てんてこ舞い。今も訳がわからず、フィリップに叱咤激励される毎日です。さらに、韓国のコンペのメンバーにもなり、驚きと喜び、不思議が入り混じった感じです。(不安はないようです。スタッフが心強いので。)

事務所のスタッフは皆とても想像力豊かで、マンリーの空のように明るく元気です。そのような人しかこの事務所にいません。でも残念ながら、まだまだわたしの視界が晴れず、皆にもまだまだ溶け込めない毎日です。最近は、皆の励ましのおかげで徐々に光を取り戻してきた感もあります。でもその光はまだ見たことのない光かもしれません。その光をいつか見てみたいものです。

先日、イースター(キリスト復活祭)で長期の休みを頂きました。そして早速、今椅子の設計をしているキャンベラの美術館にいってきました。人生で初めての仕事!としての現場です。今までの作業がここで現実になるのか!と思うと胸が踊りました。決しておもしろい街ではないキャンベラも、私のチームが考える、ランドスケープで活気づけばよいな、と思います。さらにまた、その美術館の対岸に世界大戦記念館のコンペがはじまります。なんとか思いの丈を形にして、この事務所からコンペに勝ちたいです。
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今まで机にしがみついて勉強してきたことを無駄にせず、形にする(ランドスケープ)修行がはじまりました。その形が、ランドスケープがその先どうなるのか?次はこれが見たいのです。いいものを見るためにしつこく粘り強く。

最後に、ここにくるまでの道のりになぜか、全く、不安がありませんでした。私の根拠のない自信のおかげです。というより、そのような自信をつけさせてくれた、家族や恩師、友人(もちろん宮川さんも!)のおかげです。渡豪前、仕事をしていない私を受け入れ、UFUGで学んだ事を活かして、地元鹿児島に「ロスフィー」という環境デザインのプロジェクト会社まで作らせてくれた家族と友人に感謝しなければなりません。そして私についてきてくれた妻にも。

近い将来、更に成長した!というより、彼ら彼女らの実力にやっと追いつけた自分と、その会社のメンバーと、今も世界中で活躍している人々と協力して、ランドスケープしたいです。そのためにも、私は"しつこく"生きていなければなりません。「よい しつこさ」は、世界を変えます。

共にはげみましょう。


(レポート著者紹介:執筆当時)
s-10-2-4保清人(たもつきよひと)
1981年4月鹿児島県鹿児島市生まれ。(2級建築士)。東京の工学院大学で建築環境コースで建築と地域計画(Agricultural Landscape とよんでいます。)を学ぶ。大学2年時に休学し1年間アメリカ、ウィスコンシン州(マディソン)で英語の勉強。3ヶ月間ヨーロッパ、アフリカ(エジプトのみ)で一人旅の後帰国。大学修了後は、在学中から始めていた裏千家茶道と池坊の生け花を学びながら、ランドスケープ事務所、建築事務所、荷揚げや、弁当屋でバイト生活を1年と半月。その後、UFUGマスタープログラムが行われるコペンハーゲン大学(昨年までKVL、コペンハーゲンの農業大学)、スウェーデン農業科学大学(SLU)に留学。
現在オーストラア、シドニー(マンリー)のランドスケープ事務所mcgregor+partners所属