KTH(The Royal Institute of Technology in Stockholm)
王立ストックホルム工科大学 マスタープログラム
大浦明子さんの留学レポート Ⅱ

一年前、KTH(王立ストックホルム工科大学)のプログラムUrban Planning and Designでの留学体験を報告させていただいた大浦明子です。

あれから一年が経ち、私は無事に修士論文を発表、提出し、全課程を修了しました。そして8月からは修士論文の指導に携わってくれたランドスケープアーキテクトのストックホルムにある設計事務所でインターン生として3か月の期限付きではありますが、働くことが決まっています。
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大学の建築棟(論文を書く時はここへ。パソコン等がそろってます)

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学校の近くの公園(たまにお昼を食べていた場所)

去年の夏休み以降に履修したコース
- Elective Masters Course
- Research Methodology and Science Theory
- Contemporary Trends in Urban Planning and Design
- Masters Thesis


一年目に比べると授業数も少なく、またある程度の要領も得ているために時間の余裕があったように思います。そのため、論文について、その後の進路について考える時間がありました。

- Elective Masters Course
これは似たような他のマスタープログラムから一つコースを選択して履修するというものです。私はHuman Settlements and Housingというコースを選択しました。初めに世界中の住環境に関しての講義を受けます。そして最終的にリオデジャネイロのファベラと呼ばれるスラム街を対象地として、どう改善していくかというプロジェクトを渡されました。これもグループワークでした。他にもインフラに重点をおいたもの、文化や社会性、不動産関係についてなど、選択肢はいろいろありました。

- Research Methodology and Science Theory
この授業はKTHのマスタープログラムを履修している学生の必須コースです。そのために内容は都市計画、デザインに特化したものではなく、一般的な自然科学についての講義でした。

- Contemporary Trends in Urban Planning and Design
今学期、唯一のデザインプロジェクトのコース。9月から12月まで時間がたっぷりありました。対象地はストックホルムの中心地にあるSergels Torg, Brunkebergs Torg, Gustav Adolfs Torg という3つの広場。

それぞれに特徴が違いますが、地下鉄の中心駅から全て歩いて行ける範囲で繋がっています。広場のデザインそのものだけではなく、周辺との関係、ストックホルムの中心地という立地条件、近代化の時代につくられた車優先の空間デザイン等々、なかなか問題の多い場所です。そこに新しい提案をするというのが今回の課題でした。

そしてこれもまたグループワークです。 私たちのグループは最終的に車優先から歩行者優先の空間づくりをメインコンセプトにし、時間に余裕もあったので、去年のプロジェクトに比べると詳細のデザインまで到達しました。

ただ、何度もグループワークを一緒にしてきたメンバーであったのにも関わらず、プロジェクトの進め方を決める時点で意見がかみ合わず、バックグラウンドの違う人とのグループワークの大変さを痛感しました。“当たり前”が違うということは、根本的に話が通じず、意思疎通さえ困難でした。その分、最後のグループワークで学ぶことは多かったです。

- Masters Thesis
冬休み明けの1月から夏休み前の5月までは必須の授業が全くなく、論文に集中することになります。私のプログラムは基本的に論文のコースは二つに分けられていて、理論中心の論文にするか、デザイン重視の制作にするか、担当教授がそれぞれについていて選ぶことができます。

また論文の指導教官も自分たちで選ぶことができます。(裏を返すと、自分たちで探さなければいけない…ということ)そして論文のトピックも自分たちで決めることができ、さらに締切りも自分たちで決めることができます。聞いた話によると十年以内に論文を提出すれば、その時点で卒業になるとか。そために夏休み前、クラスメイトの半分以上がまだ発表していないという状況でした。つまり、論文に関しては全て自分の責任で行うことになります。

私は一年半のプログラムを通して、自分の興味の対象はやはり都市計画の中でもランドスケープにあり、論文はそのことについて書きたいと思っていたので、担当教授にストックホルムに事務所を持つランドスケープアーキテクトを紹介してもらい、自分で直接連絡をとり、担当教官になってもらうようお願いしました。

またトピックは前回の授業の対象地でもあるストックホルムの中心地に新しいランドスケープの提案をするというものにし、グループワークでは消化しきれなかった続きのような形で取り組みました。最後は、同じ時期に論文を書き上げたクラスメイト二人と一緒に6月上旬にプレゼンをしました。

プレゼンはA1ポスターでの15分発表、30分ディスカッションという形式でした。こちらに来てから初めての個人作業で、指導教官にも恵まれ、自分が納得のいくまで取り組むことができたと思います。
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ストックホルム郊外(夏)
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ストックホルム市内の湖(冬)

二年間の留学を通して学んだことは多かったです。以前にも書きましたが、このプログラムはあくまで都市計画であり、ランドスケープに特化して勉強をするというものではありませんでした。

その点で、もう少しスウェーデンのランドスケープについて学びたかったという思いもありましたが、逆に、様々なバックグラウンドを持つ友だちと出会い、グループワークをすることができ、今までになかった新たな視点が生まれたように感じています。

ただ、このプログラムはまだできたばかりで、教授達も手探りで授業を進めているのがわかりました。プロジェクトワークがあまり多くなかったこと、セオリーの授業で扱うトピックが適切ではなかったこと、などの反省点を生かして、今後はもっと面白いプログラムになっていくと思います。

また、スウェーデンという特殊な環境を選んだことで良かったこと、悪かったこともありました。

一番良かったと感じるのは、首都であるストックホルムの街自体が緑と湖といった自然に囲まれ、歴史的建物が今でも残されている環境、そしてそれに対する人々の関わり方を体感することができたことだと思います。そして、様々な国のバックグラウンドの違う仲間ができたこと。苦労した点はやはり語学でした。

スウェーデン人はほとんどの人が英語を不自由なく話すのですが、母国語はあくまでスウェーデン語であり、その点での壁を感じたり、情報が手に入りにくかったりしていました。また留学する前同様、入ってからも、そして今もですが、日本人の前例がないために、特に進路を決める際にどうすればよいのか常に手探り状態です。

大学を卒業してから、迷った末にたどり着いたスウェーデンでの留学でしたが、この二年間は自分にとってとても有意義な時間だったと感じています。

これからまたインターンシップを通して、学ぶことは更に多くなりそうですが、自分の納得のいくまで頑張ろうと思います。
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ストックホルム市街のスカイライン